特発性過眠症

(Last Updated On: 2019年1月14日)

特発性過眠症とは

特発性過眠症は、日中の過度の眠気を主症状とする疾患のうち、ナルコレプシーの特徴(入眠期のレム睡眠の出現など)のないものの総称と考えられています。国際睡眠障害分類の第2版では、長時間睡眠を伴うものと伴わないものの2つに分類されていましたが、第3版ではそれはなくなりました。より、多くの眠気の問題を包括した分類になったわけです。以下に診断基準の拙訳を示します。

国際睡眠障害分類第3版 特発性過眠症診断基準

AからFのすべての項目に当てはまること
A. 患者は、少なくとも3ヶ月の間毎日耐えられない睡眠の欲求あるいは日中の寝落ちがあること。
B. カタプレキシーはない。
C. 標準的なMSLT検査を行った場合、眠り始め15分以内のレム睡眠(SOREMP)の回数が2回未満であること。
D. 少なくとも以下のうち一つがあること
 1.MSLTの平均睡眠潜時が8分以下であること
 2.24時間の合計睡眠時間が660分以上である(多くは12から14時間)こと。これは、睡眠不足のない状態での24時間ポリグラフ、あるいは、スリープログとアクチグラムで測定されること。
E. 睡眠不足がないこと(少なくとも一週間のアクチグラムをつかったモニターをして、十分な夜間睡眠をとったあとに判定されること)
F. 過眠やMSLTの結果が、他の睡眠障害、身体・精神疾患、薬物使用によって説明できないこと

以上

この診断基準をみると、長時間睡眠は必ずしもなくとも、診断は可能です。

原因は

原因は不明で、実際にはいくつかの異なった病態の総称である可能性もあります。過眠症のもう一つの代表疾患であるナルコレプシーは、脳内のオレキシンという覚醒を維持するために働く物質の機能不全と考えられていて、実際にオレキンが少ないことも確かめられています。しかし、特発性過眠症は、それ以外の原因が考えられますが、良くわかっていません。

しかし、これまでの研究から、あるいは、私自身の臨床的な経験から、いくつかの要因が考えられます。

  • もともと、長時間睡眠が必要な人が、社会的な生活に適応するために7時間程度の睡眠時間で過ごさなければいけない状況がある場合。
  • 実際に、未知だがナルコレプシーのような覚醒に関わるメカニズムの問題がある場合。
  • 他の項目でも説明しているように背景に、発達障害があり、注意の維持や覚醒に関わる神経伝達物質の働きがやや低下している場合。

どのように診断しますか

まずは、その患者さんの睡眠習慣について子供の頃からお聞きします。一般に長時間睡眠者は、小さい頃からよく眠るという場合が多いので、そういうことがあるかどうかということもお聞きします。そういう方が、中学校に入って、あるいは受験の時期で勉強しなければならないときに睡眠時間が短くなり、日中の眠気が出てくるということもあります。こういうケースは、日中の眠気が思春期になって出てきたということですが、それは受験などの社会的な要因によって眠くなるものと考えたほうが良いように思います。

また、小さい頃はそれほど長く眠る子供でもなかったが、中学、高校、あるいは稀ですが20歳位のある時期から眠気が出てくるということもあります。そういう場合は、なにか未知の覚醒に関わるメカニズムの障害があるのかもしれないと考えられます。

一方で、「発達障害の患者さんに見られる日中の眠気」でも説明しているように、覚醒系のドパミン、ノルアドレナリンなどの機能がやや低下しているときに見られると思われる、不注意などの症状の一つとして、眠気が出ているケースもあると思います。これは、小学校以前から不注意症状や社会的コミュニケーションの問題などがあったかどうかについてもよく聞き取りをする必要があるかと思います。

いずれにしても、睡眠を含めた生活史を詳細に聴取することはとても重要です。

眠気については、MSLTを行います。これについては、「MSLT(睡眠潜時反復)検査とは?」を御覧ください。 MSLT検査にて、入眠時のレム睡眠が見られないということも特発性過眠症の特徴です。ナルコレプシーでは、入眠時のレム睡眠がMSLTでの昼寝のうち2回以上でることが国際睡眠障害分類第3版の診断の基準になっているので、これがあれば診断は特発性過眠症でなくナルコレプシーという診断になります。

しかし、個人的な見解ですが、特発性過眠症とナルコレプシータイプ2は、明確に境界が引けない場合も多くあると思います。たとえば、MSLT検査では、レム睡眠の出現回数はその時によって、たまたま2回出現することもあれば1回しか出現しないこともあると思われます。また、平均睡眠潜時が8分に満たないけれども、眠気は非常に強くて生活には困っているという人も居ます。また、診断基準にあるような、十分な夜間睡眠をとってもることも、どのくらい眠れば十分なのかは人によって違いますし、また別の要因としては、仕事の関係でそんなに眠っていたら仕事を失ってしまうという人もいるわけです。

したがって、生育史や現在の生活の様子な、あるいは家族の睡眠の様子などの詳細な情報収集が、診断には非常に重要です。そして、治療の最終的な目的はより快適な生活を患者さんにしてもらうことですから、何が大切なのかをその中で考えていくことも重要です。

治療は?

眠気に対する治療は、多くはモダフィニルという薬物を用います。一方で、発達障害の診断ができるケースでは、これらに対する薬物も用いることがあります。更に、起床困難例などに対しても、薬物治療での改善があるケースもあります。

いずれにしても、現在の生活上の困っている点をお聞きしながら、より根本的な問題と思われるところから一つずつ解決していくという方法で、治療を行っていきます。まずは、ご相談ください。