発達障害の診断のためにWAIS-III知能検査を受ける意味はなんですか?

(Last Updated On: 2020年3月20日)

WAIS-IIIとは

WAIS-IIIは、Wechsler Adult Intelligence Scale 3rd editionののことで、16歳以上の方に適応される、知能検査です。知能検査の目的は、知能指数(IQ)を測定することですが、当院でWAIS-IIIを行う意味は、知能指数を想定するよりも、測定する際の様々な検査の結果から、患者さんの得意な面、不得意な面について客観的に把握することにあります。

これは、診断にも役に立ちますが、更に重要なのはこれから患者さんが生活していく上で、自分が何が得意で何が不得意であるかをわかることです。そのうえで、得意不得意の部分を知って、不得意部分を工夫で補い、得意な部分が十分に発揮できるような環境(職業)を選択したり、作ったりしていくことができるということがしやすくなります。

発達障害の診断のためには、必ずしもWAIS-IIIは必須ではありませんが、これによって得られる情報は、今後の治療には有用であるということは、言えると考えています。これについて解説します。

検査はどのようなものですか?

検査は、およそ2時間位かかる長いものです。途中で疲れてしまうこともありますので、 途中で休憩を入れることもできます 。検査の内容については、予めの知識を得ることが正しい結果を損なってしまう可能性がありますので、詳しくはお伝えしませんし、自分で予習してくることは検査の意味自体が曖昧になるので、特に準備なしに行うのが良いでしょう。知能の様々な面について調べます。

結果はどのような形で出ますか?

結果は、すべてのテストを採点して、総合的な形で示されます。当院では、数ページのレポートにしてお渡ししています。結果を見るときには、IQの値だけにとらわれずに、このテストの結果を積極的に利用しようという気持ちで読み取ることが重要です。

結果の解釈の仕方を教えて下さい。

IQの値

結果は

  1. 言語性IQ
  2. 動作性IQ
  3. 合成得点による全検査IQ

にて示されます。言語性とは言葉を扱う能力に関するテスト、動作性とは作業を行うための能力に関するテストによるIQです。全IQというのが、一般的に言う知能指数IQになります。いずれも、平均は100です。

WAIS-IIIの下位検査項目

WAIS-IIIの下位検査項目は以下のとおりです(Wikipedia引用)

言語性検査

知識:文化によって獲得した一般知識の程度。(例「ビクトリアの長は誰ですか?」)
理解:抽象的な社会慣習、規則、経験を扱う能力。(例「一石二鳥という諺はどのような意味ですか?」)
算数:数学問題を暗算する集中力。(例「1ドルで45セント切手を何枚買えますか?」)
類似:抽象言語理解。(例「りんごと梨はどのようなところが似ていますか?」)
単語:学習や理解の程度、および語彙の言語表現力。(例「ギターとは何ですか?」)
数唱:注意・集中。(順唱例「1-2-3」、逆唱例「3-2-1」)
語音整列:注意と作動記憶。(例「き・4・け・3・か」を、昇順に数字を言い、その次に昇順に発音して下さい→「3・4・か・き・け」)

動作性検査

絵画:完成視覚的細部を素早く感知する能力。
符号:視覚的-運動協応、運動と心のスピード。
積木模様:空間認知、視覚的抽象処理、問題解決力。
行列推理:非言語的抽象課題解決力、帰納的推理、空間推理。
絵画配列:論理/逐次的推理、社会見識。
記号探し:視覚認知、スピード。
組合せ:視覚分析、統合、組み立て。

補助問題として「符号補助問題1(対再生)(自由再生)」と「符号補助問題2(視写)」がある。

4つの群指数

WAIS-IIIでは、これらの結果から次の4つの群指数を算出します。(Wikipedia引用)

言語理解(VC)
・ 単語
・ 類似
・ 知識

知覚統合(PO)
・ 絵画完成
・ 積木模様
・ 行列推理

作動記憶(WM)
・ 算数
・ 数唱
・ 語音整列

処理速度(PS)
・ 符号
・ 記号探し

Note: 絵画配列、理解、組合せは、群指数には使用されない。

WAIS-IIIを受ける意味はなんですか?

WAIS-IIIは知能検査ですので、知能指数(IQ)を測定するものです。しかし、発達特性の問題をみる上で、WAIS-IIIを行う理由は、2つあります。1つはその人の知的な能力の得な分野とそうでない分野に差が大きいのかということ。これは、診断的な有用な情報になります。2つ目は、こちらのほうがより重要ですが、この患者様が何が得意で、何が不得意なのかがよくわかる点です。これは、どのように得意なことを生かした人生を歩むかということを考えることに繋がります。

結果は、知能指数にとらわれがちな面もありますが、この検査の目的がそこにあるのではないと言うことを強調したいと思います。自分の特徴を知り、その特徴を今後のよりよい生活に生かしていくということです。その情報として、このWAIS-III知能検査を行っているわけです。

WAIS-IIIの結果は、様々なパタンがありますから、一概には言えませんが、作動記憶の障害は、多くの発達特性の問題を持った方に見いだせるように思います。また、処理速度が遅い場合もあります。処理速度は作業のスピードだけでなく思考のスピードにも関係していることもあります。作動記憶は、作業をするときに短期間頭においておく記憶のことですが、これについては、別項で詳しく説明しようと思います。

また、視覚情報の処理と聴覚情報の処理のどちらが得意かどうかなどということについても解釈されます。このような情報は、今後の生活の工夫の材料ともなると思います。

これらの特徴を理解して、より良い生活を築いていくことに役に立てられれば、WAIS-IIIを行った意味はより大きくなると考えています。