疾患があり薬を服用ながら運転しても大丈夫ですか?

(Last Updated On: 2019年12月30日)

服薬と運転について

患者さんが日常生活の中で、運転をしないと生活をできない状況があることはよく理解しています。一方で、近年は高齢者の危険運転やてんかん発作と思われる意識消失後の事故、薬物服用後のもうろう状態での運転などのニュース報道もあり、このような事故で怪我をしたり亡くなられたご家族の立場を考えれば、危険を無くすための努力をしなければならないことは言うまでも無いことです。

これらの、状況の中で精神科医が集まる日本最大の学会である日本精神神経学会では、「患者の自動車運転に関する精神科医のためのガイドライン」(抜粋を末尾に掲載:以下 「ガイドライン」)を2014年6月に公開しています。これは、事故を防ぐとともに、患者様の日常生活を守る立場に立った妥当なものであり、すなおクリニックでもこの立場にたって、患者様への指導を行っていきます。

服薬と運転に関してのすなおクリニックの考え方

通院している患者様と運転とについては、2つの異なった視点での判断が必要になります。一つは、「病気そのものの症状による運転の適否」、もう一つは、「治療のために服薬している薬物の影響を考えての運転の適否」です。これらについて分けて、考え方を示します。

A. 病気そのものの症状による運転の適否

対象となる疾患は、末尾にリンクを添付した法務省のサイトに有るように、以下のものです。

統合失調症  
てんかん
再発性の失神
無自覚性の低血糖症
そううつ病(そう病、うつ病を含む)
重度の眠気の症状を呈する睡眠障害

統合失調症

統合失調症は、幻覚妄想状態を呈する可能性のある疾患ですが、最近は軽症化してきているとも言われ、良い薬物が開発されて多くの人が社会の中で、通常の労働環境で仕事をしています。この場合に、法務省のサイトでは「自動車の安全な運転に必要な認知,予測,判断又は操作のいずれかに係る能力を欠くおそれがある症状を呈しないものを除く。」としています。したがって、治療により症状が安定していれば、運転は禁止ではないということです。

ただし、多くの場合は、薬物を服用していると考えられますので、これらについての配慮も必要です。

てんかん

てんかんは、けいれんや意識の障害をともなう発作が起きる疾患です。運転中に発作が起きると事故に繋がります。したがって、非常に注意は必要です。これに対して、法務省のサイトでは「発作が再発するおそれがないもの、発作が再発しても意識障害及び運動障害がもたらされないもの並びに発作が睡眠中に限り再発するものを除く」としています。発作がコントロールされていれば大丈夫だということです。これについて、日本てんかん学会では、2012年に提言をだしていますが、「1年間発作が全く見られないこと」をひとつの基準にしています。また、大型車については更に厳しい基準を提言しています。

てんかんにおいても、薬物を服用している場合にはその影響についても考慮する必要はあります。

再発性の失神 および 無自覚の低血糖

これは必ずしも精神疾患を意味するわけではありませんが、再発性であれば再発するということですから、運転はしてはいけないということです。

また低血糖についても、無自覚であれば防ぎようがないので、運転はしてはいけないということですが、道路交通法では「人為的に血糖を調節することができるものを除外している」と記されています。

そううつ病(そう病、うつ病を含む)

これについても、統合失調症と同様に「自動車の安全な運転に必要な認知,予測,判断又は操作のいずれかに係る能力を欠くおそれがある症状を呈しないものを除く。」としています。したがって、症状が安定しいれば運転してよいということです。

ただし、統合失調症と同様に多くの場合は、薬物を服用していると考えられますので、これらについての配慮も必要です。

重度の眠気の症状を呈する睡眠障害

この疾患には、ナルコレプシーや特発性過眠症、そして睡眠時無呼吸症候群による日中の過度の眠気が含まれると考えられます。これについては、法務省のサイトではコメントがありませんが、日本ナルコレプシー協会のホームページで説明をしています。基本的には、「ナルコレプシーにかかっていても、治療を受け、決められた服薬をすることによって、眠気がコントロールできていると認められれば、運転免許証が交付され、車を運転することが可能です。」ということです。特発性過眠症や、睡眠時無呼吸症候群の眠気についても、これに準ずると考えて良いと思います。

日本睡眠学会の「ナルコレプシーの診断・治療ガイドライン」の中でも、「治療により改善するまでは車両運転を控えるべきであることを必ず伝えるべき」「運転習慣を有する患者には、中枢神経刺激薬の服用を怠ったまま運転することは、道路交通法違反であることを、必ず告げるべき」であると示されています。

認知症 薬物中毒

認知症、薬物中毒については免許取り消しになるとされています。
(注記)警視庁のサイトより引用
認知症のおそれがある方は、後日、臨時適性検査を受け又は医師の作成した診断書を提出するものとされ、検査結果等により認知症と判断された場合は、運転免許の取消し又は停止となります。

B. 治療のために服薬している薬物の影響による運転の適否

Aのような、疾患そのものの問題の他に、服薬時の薬物の運転への影響も考慮しなければなりません。これについては、以下のように考えています。

  1. 服薬の影響には個人差が有ります。自分への影響を確かめるため、始めて服薬するとき、あるいは投薬内容が変わったときは、その後数日間は運転を避け、どうしても運転しなければならない状況にならないように注意してください。
  2. 数日服薬して、運転に支障がないと判断される場合には、注意をして運転してください。
  3. 睡眠薬、睡眠導入剤、就寝前に睡眠を安定させるために服用する薬は、服用後10時間以上経って十分な睡眠を取った後に、自分自身が十分に覚醒し安定な状態であることを確認した上で、運転をしてください。
  4. 服薬中は、常に自分の状態に留意し(自分の状態を確認するようにし)、いつもと違うというときには運転をやめるようにしてください。薬物影響下での運転者の責任は法律上以下のとおりです。
    過労、病気、薬物の影響その他の理由により、正常な運転ができないおそれがある状態で自動車を運転した場合、1か月以上3年以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられます(同法117条の2の2第5号)。
  5. 以上のことから、ガイドラインにもあるように、”①運転時間を短くする、②運転頻度を減らす、③混雑時間帯を避ける、④夜間は運転しない、⑤悪天候では運転しない、⑥高速道路は運転しない、⑦慣れ親しんだ自宅近辺のみを運転する、⑧家族が同乗するときのみ運転する”ということを実践するようにしてください。
  6. 基本的な考え方は、医師は「病気や薬が運転に対して影響があることを十分に説明をする」ということです。そして、患者さんご自身は、「正常な運転ができないおそれがある場合には、運転してはいけない」ということです。

すなおクリニックからのお願い

これらの疾患の患者さんに対して、運転を禁止しなければならない状態がある場合は、主治医から指示をいたしますので、絶対に守ってください。しかし、そうでない場合にも、事故を起こさないかと言えば、そうは言えません。それは、疾患がない人でも事故をおこすのと同様、どのような場合にも事故をおこす可能性があるからです。また、注意欠如障害などの不注意症状がある疾患では、事故をおこす可能性も高くなります。このようなことは診療の中でも指摘いたしますが、これらが、運転者本人の責任になることを十分に自覚してください。

更には、治療をしていても、薬を飲み忘れたりすることもあります。そういうときには、勇気をもって車を運転せずに電車で電車で移動するということも、実行してください。お酒を飲んで運転することは絶対に避けなければなりませんが、症状がある中で運転することは、同様に非常に危険だとしっかりと自覚してほしいと思います。

以上

【参考資料】

患者の自動車運転に関する精神科医のためのガイドライン
(日本精神神経学会2014.6.25 版)より抜粋

Ⅰ 一般的事項

1) 主治医として患者の自動車運転に関わるときに念頭に置くべきこと

精神科医は、主治医として患者に関わるとき、患者の生活上の困難を軽減し、その生活が患者にとってより望ましいものになることを目指している。現在、精神科で治療中の患者の多くが運転免許を所持し、日常的に自動車を運転している。多くの患者にとって自動車を運転することは生活を維持する上で重要なことである。一方、他の身体疾患と同様に、精神科疾患においても、症状の増悪により運転能力に支障をきたしうる。

したがって、精神科医は患者が症状の増悪によって運転能力を損なうことのないよう気を配る必要があるし、そのような状態のときに自動車を運転して交通事故を起こすことのないように働きかけることを求められる。

患者の運転能力の低下ないしは喪失は症状の増悪等を含む具体的な健康状態によって判断されるべきであり、診断名・病名によって一律に判断されてはならない。但し、現実には運転能力の評価は容易ではなく、交通事故という、自動車運転がこれだけ著しく広範に行われていることに比較すればまれな、一方で健康人でも起こし得る事象を、病気の影響でそれが起こると確実に予測し得る指標はないし、また事後的にも、その事故が病気の影響で起こったのか否かの判定には困難を伴う。

主治医は、患者が交通事故の当事者となることを回避するよう努力すべきであるが、同時に運転の制限が社会生活ないし職業上の支障を来し、場合によっては通院へも困難をもたらすことがあることを意識し、これを不必要に行うことがないよう留意しなければならない。また、以下に述べる運転しないことの勧告や診断書の記載、任意の届出が、症状の過少申告や治療中断などの治療関係の悪化をもたらし得ること、それは患者自身にとってばかりでなく交通安全の観点からも不利益であることも念頭におくべきである。

2) 患者へのアドバイス

精神科医は、患者の治療経過の様々な時期に患者が運転能力に支障を来していることに気づくことがあるだろう。そのようなとき、精神科医は主治医として積極的に患者に対して交通事故を起こすことのないよう、可能な限りのアドバイスをしなければならない。患者及び家族と、運転に伴う危険に関して率直に話し合うことが最も重要である。

患者の精神医学的状態に応じて、精神科医は患者に対し、運転能力を回復するために必要な治療を受けるように勧める。また精神科医は、①運転時間を短くする、②運転頻度を減らす、③混雑時間帯を避ける、④夜間は運転しない、⑤悪天候では運転しない、⑥高速道路は運転しない、⑦慣れ親しんだ自宅近辺のみを運転する、⑧家族が同乗するときのみ運転する、などの制限によって危険性が低下すると考えられるのであれば、患者や家族に対しこれらを推奨する。

患者の現在の状態、症状と運転能力低下との関係を精神医学的な情報とともに詳しく説明し、患者自身が今の状態で運転することの危険性を自覚するよう促すことが重要である。

3) 運転中止の指示

患者が上記のような制限によっても運転に伴う危険性の低下があまり期待できず、現時点では運転を中止することが必要と判断されるときには、精神科医はその旨を患者および家族に対して明確に伝え、運転の中止を指示するべきである。

4)守秘義務と法的責任

今日、医師の守秘義務に関する解釈としては、家族に対して患者の情報を開示することについても守秘を求められることが一般的であるが、患者の運転能力が低下しており、交通事故を起こす危険性が明らかである場合、家族に対してその危険性を伝えることを躊躇するべきではない。またそれは守秘義務の違反とみなされるべきではない。

後に述べる任意の届出においては、医師が守秘義務違反として刑事責任に問われることがないことは法に規定されている。その他、本ガイドラインに記されている点につき、主治医が適切な治療的配慮のもとで行ったことあるいは行わなかったことについては、医師として刑事ないし民事上の責任を問われるべきではない。

運転禁止薬物の処方についての現実的な対応と今後の方針(注を挿入)

これら(精神科で処方される殆ど)の薬物は、副作用として眠気などの明らかに運転に支障を来す症状を呈することがあり、注意が必要である。前述した道路交通法第 66 条の規定は遵守されるべきである。しかし、副作用の出現の仕方には個人差があり、処方を受けた者全員に運転を禁じなければならないほどの医学的根拠はない。実際にこれらの薬物の投与を受けている者が運転に従事しており、実態にもそぐわない。処方する医師としては、薬物の開始時、増量時などに、数日は運転を控え眠気等の様子をみながら運転を再開するよう指示する、その後も適宜必要に応じて注意を促す、といった対応が現実的であろう。

但し、添付文書の記載や上記通知は無視することはできない。日本神経精神薬理学会、日本うつ病学会は、平成 26 年 1 月 17 日付で、厚生労働省医薬食品局安全対策課に対し、添付文書の改訂についての要望を行っている。当学会でも薬事委員会を中心として、添付文書の不適切・非医学的な記載について、今後改善を目指し、厚生労働省や独立行政法人医薬品医療機器総合機構への働きかけを行っていく予定である。

法務省のホームページより以下のPDFファイルも参考にしてください:

「自動車の運転に支障を及ぼすおそれがある病気」について

認知症に関連して、警視庁のホームページも参考にしてください:

高齢運転者に関する交通安全対策の規定の整備について