睡眠中の、乱暴な言動、行動
レム睡眠行動障害(RBD = REM sleep Behavior Disorder)という言葉は、患者さんは割合知っているように思います。このような症状で来院される方の少なからぬ方々は、自分で調べて、あるいは新聞や雑誌などの記事を読んで、自分がレム睡眠行動障害ではないかと言ってこられます。この疾患は、どのようなものでしょうか。
睡眠にはレム睡眠とノンレム睡眠がある
睡眠にレム睡眠とノンレム睡眠があることは、知られていると思います。図は正常の睡眠の基本構造を示したものですが、太線で示したレム睡眠がだいたい1時間半ごとくらいに現れているのがわかります。必ずしも、ちょうど1時間半で出現するわけではありませんが、レム睡眠は睡眠全体の20%位を占めていて、ノンレム睡眠(レム睡眠でない睡眠)と交互に出現するパタンをとります。睡眠は、ノンレム睡眠から始まって、レム睡眠⇒ノンレム睡眠⇒レム睡眠…と交互に出現して朝を迎えるということです。また、レム睡眠は明け方になると長めに出現するという特徴もあります。
レム睡眠期には夢を見ている
レム睡眠には様々な特徴があります。その中のもっとも大きな特徴は、夢を見ているという点です。また、脳波をとると、レム睡眠のときの脳波は覚醒しているときの脳波と似た波形になっています。つまり、夢をみながら脳が活動しているということです。しかし、その脳の活動が体に伝わらないように、正常のレム睡眠では筋肉の活動をブロックするメカニズムが働いています。したがって、レム睡眠期には脳波は覚醒に似ていますが、筋電図はほとんどフラットで出現していません。
レム睡眠行動障害ではレム睡眠の筋活動ブロックがうまく働かない
さて、レム睡眠行動障害の症状は、軽症から重症に向けて、以下のようなものです。
- 寝言を言う(この段階では障害と言えるほどの状態ではないと思います)
- 大声で寝言を言う、怒鳴る
- 手を動かす、振り回す
- 上半身を起こして、手を振り回す、隣の人を叩く
- 起き上がって隣の人を殴る
- 立ち上がり壁にぶつかる、階段から落ちる
このような行動が起きるのは、レム睡眠期の筋肉をブロックするメカニズムが十分に働いていないためであると考えられています。上記に、YouTubeにアップロードされていた動画を掲載しましたが、短い動画ですので御覧ください。
このような行動は、レム睡眠になると出現してくるので、夜の間ずっとあるわけではありません。一定間隔で出てくると考えて良いと思います。
どのような原因で?
原因は、よくわからない特発性のものが多いと思いますが、レム睡眠期の筋肉活動をブロックするメカニズムを壊してしまう病気の前兆として出現する場合も多いと思います。そのような病気としては、パーキンソン病、多系統萎縮症、レビー小体型認知症などがあります。どれも、神経変性疾患の一つです。
また、大量飲酒をしていた人の中に、このようなレム睡眠行動障害が現れる人も居ます。このような場合は、断酒をすると症状が無くなるか、あるいは軽くなることが多いです。
頻度は?
頻度は、全人口の 0.38–0.5% くらいだと考えられていますが、最近の調査によれば、60歳以上では 2%くらい(50人に1人くらい)であり、さらに70歳を超えると6% くらいの人に出現するようです(John Peeverら、2014 Trends in Neuroscience参照)。高齢者では、珍しい疾患ではないと思われます。
治療は?
ちょっとした寝言では、治療せずに経過を見ることも可能だと思いますが、多くのケースでは同室で寝ているものが、うるさい、ぶたれるので怖い、などということで来院されます。本人には悪気はないのですが、このような状態はいろいろな不都合がありますので、治療の対象になります。それ以上の重症例では、通常治療を行います。
通常用いられる薬物は、クロナゼパム(リボトリール)です。ベンゾジアゼピン系の薬物で、幾分の依存性がありますが、非常に効果がある場合が多いです。少量で、効果があるのでなるべく少量を続けるようにします。また、人によっては治療により、夢の内容が楽しいものに変わったという人も居ます。
また、レム睡眠を減少させる薬物(アナフラニール)や、パーキンソン病の治療薬(ビ・シフロール)などを使うこともありますが、ビ・シフロールなどの効果は限定的なことも多いです。
まずは、正しい診断と治療を
まずは受診し、正しい診断と知慮をすることが重要だと思われます。アルコールの摂取量の多いケースでは、アルコールをやめるという指導も、受診によってうまくいく場合もあります。