長時間睡眠者(ロングスリーパー)

(Last Updated On: 2019年1月7日)

長時間睡眠者とは

長時間睡眠者は、体質的に長時間眠る必要がある人をのことです。長時間というのが、何時間かという定義はありませんが、ICSD-3によれば10時間程度がその基準になっているようです。しかし、必要な睡眠の長さも日中の活動量などによって異なっていますし、ある人について、何時間何分の睡眠が必要だということを明確に評価する方法はありませんので、いずれにしても普通の人よりも長く眠る必要がある人を長時間睡眠者と言っているということで良いでしょう。したがって、「あの人の生活をみていると、確実にロングスリーパーだ」という人もいれば、「そんなに昼間眠いならもっと夜長く寝たほうが良いですよ。ロングスリーパーの傾向があるのかもしれませんね」というような人もいるということです。そういったことから長時間睡眠者は、その人にとって十分な睡眠を取りさえすれば、生活上問題はない人とも考えられます。また、睡眠の質も正常であると考えられています。したがって、長時間睡眠者(ロングスリーパー)は、「睡眠障害」ではなく、「正常だが極端に睡眠時間が長く必要な人」ということになっています。しかしながら、この体質から非常に困っている人が大勢いるということも事実です。

体質的なものは子供の頃から

長時間睡眠者の多くは、長く眠る傾向が子供の頃からあるというのが特徴です。しかし、小学生低学年年代では、成人に比べれば長く眠るというのは一般にみられる特徴ですので、その年代では「よく眠る子供」とは思われていても、他の子供に比べて明らかに長いかどうかはわからない場合も多いと思います。また、第一子であれば、親も初めて育てる子供なので、他の家庭の様子をこまめに聞かない限りは、こんなものかなと思うことも多いと思います。

長時間睡眠体質は遺伝する

更には、長時間睡眠をとるという体質は遺伝する傾向があり、親も長く眠るという性質があれば、特別な問題を感じずに小学校時代を過ごすということもあると思います。例えば、休みの日は昼ころあるいは昼過ぎまで家族で眠っていて、遅いブランチを食べるということが通常行われている家庭は、あると思います。このような家庭では、親も長時間睡眠の傾向があり、特に勤務時間の関係で十分な睡眠時間が月曜日から金曜日に勤務日に確保できない場合には、休日に長く眠るということになります。しかし、このような生活習慣が、子供に長時間睡眠という「問題」を作り出すということは、多分無いと思います。多分というのは明確な研究がないということですが、むしろ、そのような体質が遺伝して子供も一緒に長く眠ることが多いという解釈のほうが正しいと思われます。

このような場合には、両親の片方が長く眠るということもあると思いますし、たまたま両方が長時間睡眠の傾向をもつということもあります。一般的な遺伝の法則から言って、後者の場合には子供にはその影響がより強く出る傾向があります。このようなことから、「日中の過度の眠気」を訴えて来院した患者さんの診断をしていく上では、幼少期からの睡眠習慣だけでなく、家族がどのように生活していたのかを聞くことも、時に重要です。

過眠症と長時間睡眠者は違うのか

他のエントリーなどで説明してきた過眠症は、睡眠障害に含まれる疾患です。ナルコレプシーは、特にその中核的タイプであるタイプ1には、カタプレキシー症状がありますし、睡眠ポリグラフィー(PSG)検査を行うとレム睡眠から睡眠が始まることが多くあります。また、特発性過眠症は、若年期のある時期から発症するということがほとんどですし、十分な睡眠時間をとったとしても、昼間の眠気があるということが重要です。

しかしながら、実際の臨床の現場で経験することは、長時間睡眠者と特発性過眠症は、ときに区別することが非常に難しいということです。というのは、子供の頃の睡眠習慣は実際には、明らかに長いかどうかはわからないことが非常に多くあります。したがって、診断的には長時間睡眠を2週間程度してもらいます。長時間睡眠は「睡眠不足症候群」の診断のときにも用いる手法ですが、視点を変えれば、長時間睡眠者が日中眠いというのは、相対的に十分な睡眠が取れておらず睡眠不足症候群だということでもあります。しかし、長時間睡眠者には十分な睡眠時間を確保するために、ときに毎日10時間以上眠ってもらうということが必要になるわけです。しかしながら、通常の社会生活を送りながら、毎日10時間以上眠るということは実際には難しいことが多くあります。

したがって、長時間睡眠者の中には、本人にとっては短い「通常の睡眠時間」をとっても、昼間眠いということになり、MSLT検査で結果として陽性(過眠症であると誤って判定される)となるケースも多くあると思われます。また、たとえ長時間睡眠者であると「正しく」診断されたとしても、社会生活の中では日中眠いことには変わりない状態が続くケースもあると思います。そういった場合には、患者さんと相談をしながら、必要に応じて投薬を行っています。

NPO法人日本過眠症患者協会

過眠症の患者さんだけでなく、体質的な長時間睡眠者も上記のような上記のような状況の中で、困っているということも多く、互助団体としての日本過眠症患者協会が作られています。このウェッブサイトを読むと、長時間睡眠が必要な体質の人達が、実際の生活の中で非常に困っており、治療を必要としていることが詳細に述べられています。このような状況を考えると、体質的な長時間睡眠者についても、通常の社会生活を送る上で問題があれば、治療的なアプローチを積極的にしていくべきではないかと考えています。

参考

日本過眠症患者協会: https://www.kaminshou.net/