発達障害の患者さんに見られる日中の眠気(改訂版)

睡眠専門外来を日中の眠気で受診する患者さん達

睡眠専門外来を現在すなおクリニックで行っています。そこには、様々な患者さんが見えます。精神科医としての30年余りの臨床経験の中で、15年位前から日中の眠気で訪れる患者さんを睡眠障害の視点から、発達障害の治療に治療の視点を転換する必要があるケースに多く出会ってきました。これについては、「睡眠医療」という睡眠医学専門家向けの雑誌にコラムを書きましたが、この中での典型的な経過についての部分を掲載します。このようなケースは、注意欠如多動性障害(ADHD)と診断されるケースだけでなく、自閉症スペクトラム障害(ASD)と診断されるケースにも認められます。

睡眠医療:113号:2017 著者による改変 引用

幼少時から発達障害全般のいくつかの症状を確認できることが多い。例えば、忘れ物が多い、怪我が多い、感覚過敏などである。ADHDのタイプとしては、日中の過度の眠気を呈する群に不注意優勢型が多いという報告がある(Gau et al. 2007)ように、多動性障害、衝動性は確認しにくいように思われる。また、ASDの特徴が見られることもある。

小学校の時期には、睡眠の問題は確認されないことも多く、むしろ不注意症状がみられる。いじめ、不登校については質問すべき項目である。不注意優勢型のADHDに多く認められると考えられているゆっくりした認知(sluggish cognitive tempo: SCT、(Becker et al. 2016))などのために、いじめの対象となることも多いからである。

眠気は小学校の高学年から中学校の時期以降に顕在化する事が多い。授業中の居眠りが主体で、体育などの主体的な活動中には少ない。しかし、教室での授業では最初の10分ほどは起きているが、あとは殆ど眠ってしまうという。常習的に遅刻するということも見受けられる。中学高等学校を通じて、ADHDの特徴として、提出物が遅れがち、出せないということもある。ケースにもよるが、不注意症状のために苦労し、実力相応の成績が取れず、もったいないと言われることもある。

高校時代も同様で、授業はほとんど眠っているということもある。この段階(中学生、高校生)で来院するケースは、治療によって適応が良くなり成績も改善することが多い。しかし治療に結びつかないケースでは、起床困難が有り、出席日数が足りない状況になることもある。出席日数の他に、発達障害の特徴により、周りと協調できないなどの要因のために退学する、或いは通信制高校などに転校、あるいは高校卒業認定試験を受ける場合もある。

高校卒業資格を得て大学に進むケースでは、受験などでも不注意な間違いで苦労することが多いが、工夫によってある程度克服されているように見えるケースもある。もともとの能力が高いケースでは、入学試験のレベルの高い入学していることも少なからずある。

こういった人たちにとって、大学時代は比較的適応して過ごす事が多い。クラブやサークル活動など、主体的な活動は活発に行い、時に独創的なアイディアによって中心的な役割を果たす。しかし、良く聞いてみると、授業中は殆ど眠っていた、聞きたい授業でも眠っていたと言うことが多い。

次に問題が明確に顕在化するのは、就職後である。特に、一日8時間のデスクワークをする場合には、眠気のために十分な仕事が出来ない。このようなケースでは、上司に叱責され、うつ状態となり来院することもある。このような場合は、単に抑うつ症状に対する治療を行うだけでは不十分で、抑うつの原因や、生活史を丁寧に聴取することが大切である。また、この段階で過眠或いは日中の過度の眠気を主訴に来院することもある。

全体として、ADHDでは不注意優勢型に、またASD傾向のあるケースでも多く見られるように思われる。

発達障害にみられる日中の眠気症状

2012年に講演を聴く機会のあった、Umesh Jain先生(カナダ人でADHDが専門家)に、講演後の食事会で話しを聞いてみたことがあります。自分は睡眠が専門というと、彼もADHDの睡眠をやっているといことで、論文を幾つか紹介してくれました。

Sleep and daytime function in adults with attention-deficit/hyperactivity disorder: subtype differences / Yoon-SYR, Jain-UR, Shapiro-CM / Sleep Medicine 14 (2013) 648–655

 この論文は、成人のAD/HDの眠気について質問紙調査したものです。これによると、なんと約85%の患者さんが昼間の眠気や睡眠の質の悪化を訴えています。夜間睡眠については、入眠困難、睡眠の中断、睡眠中の暑さなどです。ADHDにはサブタイプがあって、多動衝動優勢型、不注意優勢型と多動も不注意もある混合型に分けて結果を解析しています。結果として、不注意優勢型の方が、睡眠の問題や日中の眠気が強いようです。また、男女では日中の眠気は不注意優勢型の女性が一番強いようです。

どうして発達障害で日中の眠気が出るのか(仮説) 

ADHD, ASDのケースで眠気が出る理由は、はっきりとはわかっていません。また、ADHD, ASDの原因もわかっていない段階です。しかし、ADHD治療薬には、神経伝達物質であるドパミンやノルアドレナリンの活動を活発にする働きがあります。これらの物質は、覚醒にも関わっています(図)。そう考えると、ADHDの患者さんでは、ドパミンやノルアドレナリンの働きが低下して、注意力が低下するだけでなく、覚醒の維持もうまくいかないために眠気が出るとも考えられます。こういった仮説は、今後様々な研究で明らかになっていくだろうと思われます。

ADHDを生活全体から改善していく 

こういった日中の眠気の強い患者様たちの日々の生活の質を向上させるための治療は、注意欠如の症状だけでなく睡眠覚醒を含めて総合的に行うのが良さそうです。夜間睡眠が安定しないという方も多く、生活指導として運動などを取り入れながら、生活リズムを整え、夜間睡眠の質を生活から向上させることが大切であるように思われます。

一方で、下記に述べる薬物療法は、時に生活を著しく改善させ、併用する価値のある治療法であると考えています。

薬物療法でも生活が改善する

薬物療法として、日中の眠気をとるときにメチルフェニデート徐放剤(コンサータ)は有効な場合が多くあります。また、このような患者さんにアトモキセチン(ストラテラ)を投与しても、日中の眠気が取れ、更に夜間睡眠が改善するという感想がよく聞かれます。ストラテラは通常、朝投与しますが、これが夜間睡眠を改善するということは非常に興味深い点です。これは、日中のノルアドレナリン系の機能亢進が、二次的に睡眠のメカニズムに好ましい影響を与えている可能性があるのかもしれません。

更に、起床困難(朝起きられない)があるケースでは、また別の薬物療法を用いることで、改善が認められます。

ときには、過眠症から不注意症状が出ることも

もう一つ注意すべき点は、過眠症から不注意症状が現れることがある点です。眠気が強ければ、不注意になるというのは理解でき、このようなケースでは眠気が出る以前の小学校時代には、不注意症状がないということから、眠気による不注意であることがわかります。

そういった意味でも、生育歴を詳細に聞くことは、非常に重要です。

まずは正しい診断から

最も重要なことは、正しい診断を行うことであることは、言うまでもありません。睡眠専門外来においても、このような発達障害などの他の障害を見逃す可能性については、十分に注意しておくことも大切であるように思われます。

当院では、睡眠障害で訪れた方も、発達の問題や、抑うつなどで訪れた方も、初診時に十分な問診を行って、どの可能性についても考えながら総合的に診断を行うようにしています。