ナルコレプシーとはどのような疾患ですか

(Last Updated On: 2018年8月20日)

On your application it says you have narcolepsy. What is that?
あなたの出願書類にナルコレプシーがあると書かれていますが、これは何ですか?

ナルコレプシーは日中の過度の眠気を主な症状とする代表的な中枢性過眠症です。
ナルコレプシーの患者さんは、社会の理解のなさから困っています。

ナルコレプシーは治療により通常の生活を送ることができます。

生活に困難がある疾患です

最初に漫画を出したのは、ナルコレプシーの患者様が普段の生活で本当に困っていることを示すためです。長い間これが病気なんだとわからず、自分は怠け者だと自信を失ってしまう。周りの理解が得られずに叱責され、仕事上で不利な思いをする。そういう思いをされてきた方々が多くいると思います。自分がナルコレプシーだと思ったら、すぐに受診して下さい。より良い生活を取り戻しましょう。

日本人の有病率は、600人に1人くらいだという調査結果が有ります。これは、様々な国の中で多い方であるということです。ナルコレプシーは非常にまれな疾患ではないということです。

ナルコレプシーの症状

日中の過度の眠気

ナルコレプシーは、睡眠に関連した神経疾患で、症状として日中の過度の眠気、睡眠発作があります。

日中の眠気は、短い睡眠のあとに、とてもスッキリするというのも特徴です。

ただ、眠いだけでなく、眠り込んでしまうということが多くあります。また、状況依存性でなく、とても眠り込まないだろうと思われるような、緊張した場面(例えば、大切な顧客との交渉の場など)でも眠ってしまうということがあり、これが社会生活上の問題になります。

カタプレキシー(情動脱力発作)

ナルコレプシーの眠気以外の特徴的な症状としては、カタプレキシーとよばれる、「驚いたり、激しく怒ったり、あるいはとてもおかしいときに、力が抜ける。」という症状があります。この症状は、非常に特徴的なもので、この症状がある人は、聞かれると「あります」と答えます。

力の抜け方には、手に持っているものを落としそうになる、落としてしまう、顔の表情がなくなって筋肉が弛緩してしまうというようなものから、椅子に座っていても落ちそうになる、立っていられず座り込んでしまうなど様々なレベルがあります。

カタプレキシーが無い場合でも、ナルコレプシーと診断されることはあります。この場合は、眠り始めにレム睡眠が出現する現象があるということ(正確にはMSLT検査によって、検査中に2回以上レム睡眠が眠り始めに出現すること)が診断の条件となります。カタプレキシーのあるものを、ナルコレプシー タイプ1、カタプレキシーの無いものを、ナルコレプシー タイプ2と分類しています。

入眠時幻覚・入眠麻痺

この他に、いわゆる「金縛り」に相当する症状があるのも特徴です。眠り込む時期に、通常は恐ろしい内容の視覚的にハッキリとした夢をみて、もがいたり声を出そうとするが、体が動かないという症状です。

理由は分かりませんが、非常にグロテスクな、のしかかられて、はらわたを掴まれるなどの夢を見るという人も居ます。また、電車の中の居眠りでこのような状態が出現すると、周りが夢か現実かもわからず、声も出せないのでとても怖いということを話してくれた患者さんもおられます。

夜間中途覚醒

また、日中の眠気がつよいので、夜もよく眠れるだろうと思われがちですが、夜間睡眠は逆に中途覚醒が多く、安定して眠れないなど、質が低下しています。

総じて、昼間も夜も、眠気があるが、安定してぐっすりは眠れないという状態があると考えても良いと思います。

どうしてナルコレプシーの症状が出現するのですか?

ナルコレプシーの症状が出現する理由は、最近徐々に分かってきました。その大元は、脳の視床下部外側野というところから、オレキシンと呼ばれる物質が十分に分泌され無いためと考えられています。オレキシンは、脳幹という脊髄に近い脳の部分にある、覚醒をに関係した神経細胞の活動を維持する働きをもっています。また、オレキシンはレム睡眠の出現を制御する働きも持っているようです。

したがって、オレキシンが十分に働かないと、覚醒を維持できず、突然眠ってしまうということがおきてきます。また、通常でてこない睡眠の始めや覚醒中にもレム睡眠のメカニズムが働いて、入眠時幻覚やカタプレキシー(力が抜ける)ということがおきてきます。レム睡眠中は、筋肉の活動がおこらないようにするメカニズムが有り、これが覚醒しているときに働いて、情動が活性化されたときに力が抜ける(上記のカタプレキシー)ということです。

どうしてナルコレプシーという病気になるのですか?

どういう理由でナルコレプシーになるのかはよく分かっていません。おそらく幾つかの要因があるのだと思います。一つ考えられるのは、遺伝的なものです。ナルコレプシーの患者さんには、遺伝子の特徴がいくつかあることが知られています。また、自己免疫疾患で、自分自身の抗体が脳のオレキシンを分泌する部位を壊してしまうということもあるかもしれません。また、頭部外傷によってこのような状態になることがあるとも言われています。

ナルコレプシーの診断はどのようにしますか?

詳細な症状の聞き取りや、小さい頃からの経過が大事です

初めての受診の場合は、小さい頃からの生活や睡眠の様子をお聞きします。その中で、病気がいつごろから出てきたのかをしっかりと把握します。また、ナルコレプシーの様々な症状が出てきた時期についても、お聞きします。例えば、金縛りのような症状はいつごろからあったのか、頻繁であったのか。また、カタプレキシー(情動脱力発作)は、いつごろから出てきたのかなどです。

これらの詳細な聞き取りによって、診断は付く場合が多くあります。しかし、聞き取りだけでは、入眠期にレム睡眠があるのかどうかなどは、分かりません。

眠気を評価する質問項目も役に立ちます

聞き取りと同時に眠気の指標となる、オーストラリアのJohns先生の発案したエプワース眠気スケールを行います。これは以下の8つの状況で、0:眠ることはない、1:眠るかもしれない、2:眠ることもある(1と3の間)、3:ほぼ眠ってしまう の4段階の合計点が0-5 日中の眠気はなく正常範囲、6-10 日中の眠気はあるが正常範囲、11-12 日中の眠気が軽度問題となる、13-15 日中の眠気が中程度問題となる、16-24 日中の眠気は非常に問題となる、と評価されます。

日本語版のエプワース眠気スケールについては、日本呼吸器学会雑誌の論文に掲載されているものを御覧ください。

このスケールは、11点以上が眠気の問題となっていますが、大学生などでは11点以上の人は多く居ます。したがって、その人の置かれている状況を考慮することも大切です。

MSLT検査(反復睡眠潜時検査)が、眠気と入眠期のレム睡眠の出現を明らかにします。

MSLT検査については、すなおクリニックQ&Aの別の項目で詳しく説明していますので、そちらをご参照下さい。

その他の検査

ヒト白血球抗原(HLA)検査

ナルコレプシーの遺伝的な検査として、HLAといういわば白血球の血液型を調べる検査があります。ヒト白血球抗原(HLA)検査のでDQB1*0602が陽性と出れば、遺伝的要因によるものと考えられます。

髄液オレキシン検査

髄液検査を行い、髄液中のオレキシン濃度が正常値の最低ラインより低ければ、ナルコレプシーである可能性が高いと考えられます。

ナルコレプシーの治療はどのようにしますか?

最も大事なのは生活から症状を改善していくことです

夜間睡眠を十分にとり、規則正しい生活をするということがとても大事なことです。仕事が忙しいなどの社会的な要因がありますが、必要があれば診断書を書いて、規則正しい、睡眠を十分取れる生活を確保するようにします。

昼寝も欠かすことはできません。昼寝を少しする時間や場所が確保されるだけで、その後の時間をとても快適に過ごすことができます。これについても、職場の理解を得られるように、積極的に協力して、良い環境を確保していくように致します。

薬物療法も欠かすことができません

薬物療法の一つは、覚醒度を上げるための薬(精神刺激薬)です。これを朝服用することにより、日中の生活は格段に改善します。この薬をしっかりと服用するようにしてていきましょう。

また、カタプレキシー(情動脱力発作)や入眠時幻覚などに対しては、レム睡眠のメカニズムを抑制する薬物を用います。

更に夜間の睡眠の状態の改善に、睡眠を維持する薬物を補助的に使うこともあります。

ナルコレプシーだと思ったら?

この解説を読んで、ナルコレプシーだと思ったら、日本ナルコレプシー協会のホームページにある、睡眠障害専門病院リストを御覧ください。すなおクリニックもこのリストに載っています。この中から、近くのクリニックを探して、受診しましょう。適切な診断と治療をしてくれる先生に出会えると思います。