生活からうつを改善するとは?
すなおクリニックでは、標準的な治療を行っていますので、薬を全く使わないで生活からうつを改善しようという提案ではありません。中等症以上のうつ状態があれば、薬は使います。生活からうつを改善するというのは、うつ病を改善する過程で、薬だけで良くするのではなく、家庭生活や職場を含めた社会生活全般を見渡して、改善できるところを少しずつ良くしていくという治療もあわせて行っていくという意味です。これによって、薬の投与量は多くの場合少なくなると思います。
具体的には?
具体的には、生活の3要素と言われている、運動、睡眠、食事 についての様子を伺い、ご本人のこれまでの生活やできることなどを伺いながら、具体的に変えていける点を探っていくということです。また、このような基本的な生活習慣だけでなく、うつの原因となっている、ご本人の特徴、すなわち性格や、家庭の事情、時に背景にある人とのコミュニケーションや、不注意さなどについても伺いながら、改善を考えていきます。更には、仕事の内容についても具体的に伺って、自分にあわないストレスの多い仕事であれば、これについても相談しながら、現実的に可能な範囲において、仕事場や仕事の種類を修正するということを行っていきます。
運動が気分を改善する
運動によるうつの改善については、様々な研究が有ります。これらの研究をみると、うつ病の症状が中等度程度までであれば、外来でも家族と一緒に散歩をするなどをすることは決して症状を悪化させたりするものではありません。無理に運動することについては、注意が必要ですが、積極的運動を取り入れることで、回復をはやめるという報告もあります(運動の薬物療法に対する増強効果)。また、習慣的な運動がうつ病の寛解状態の維持(うつが改善した後に良い状態を維持する)というにも効果があるという研究もあります。
これらを総合的に考えるとうつ状態で休職したとしても、最も重症の時期を除いて、なるべく一日に30分程度の動く時間を作ることは大事です。
ここで、注意すべきは、一日中運動する必要はありません。殆どの時間は休息にあてても、30分~40分程度の運動を行える時間帯に行うということは非常に大切であると考えられます。
詳しくはこちらの私の文献を御覧ください。
睡眠を取ることも大事
うつと睡眠についてはたくさんの研究が有ります。その多くは、短時間睡眠や不眠症がうつ病のリスクファクターになっているというものです。不眠のある人は無い人に比べても、10倍程度うつ病になりやすいという研究(Taylor et al. 2005)も有ります。
また、うつ病の患者さんは一般にあまり良く眠れなくなってしまいます。この状態は、患者さんにとってはとてもつらいことです。悲観的なことを考えながら暗い中で悶々と何時間も過ごすことになり、これ自体がうつを悪化させてしまう可能性もあります。
このような睡眠障害に対しては、睡眠を促進する薬物療法を行います。この場合にも、なるべく依存性の少ない薬物を使うようにしています。たとえ、依存性があると言われているベンゾジアゼピン受動態作動薬(ロヒプノール、マイスリー、ルネスタ、リスミーなど)を用いた場合にも、必要がなくなれば他の薬に置き換えていくことを常に頭に起きながら処方するようにしています
また、睡眠を安定させる抗うつ薬などもしばしば用います。これらの薬は依存を起こさせないという良い面もあります。
更には、運動を導入することによって、睡眠が改善するということもあります。したがって、上記の運動は、それ自体がうつ病の症状を軽減させるだけでなく、睡眠を改善させることによってうつ病の症状を軽減させるとも考えられます。
運動と睡眠に関しては、日経ビジネスOnlineの私の記事も御覧ください。
食事については、内容とタイミングも大切です
生活からうつを改善するときに、食事については欠かせません。一つは、食事の内容です。これについては、国立精神・神経医療研究センター神経研究所 疾病研究第三部
部長功刀浩先生が非常に良い研究をされています。詳細は、以下のリンクをご覧になると良いと思いますが、最も大切なことは一般に言われている健康な食事、つまり魚や肉からタンパク質を十分取り、野菜などもバランス良く食べるという食生活を維持していくことです。うつになる患者さんの食生活があまり良くないものであることはしばしばあります。
このような、食事の内容だけでなく食事を取る時間帯も大切です。夜遅くの食事は、体内時計を遅い方向にずらして、通常の時間帯に眠りを取ろうと思ってもよく眠れないことに繋がる可能性があります。基礎研究の結果などをみると、食事を取る時間帯と体内時計の間には強い関係があります。社会生活をしやすくする通常の時間帯にしっかりとした睡眠が取れるように、朝食をしっかりととり、また夕食もあまり遅くならないように、食生活の内容と同時にタイミングにも気をつけましょう。
職場や家庭の問題を解決する
うつ病は、薬だけでは良くなりません。職場や過程の問題も多くあります。職場についてはその背景にある、人間関係、仕事量などについての問題を詳細にお聞きして、改善できる部分を探っていきます。この中で、患者さんご自身の性格傾向(メランコリー親和型性格)や、軽度の発達障害(注意欠如多動症、自閉スペクトラム症)などについて明らかになり、これを同時に解決していくことが必要になることもあります。
家庭内の問題は、夫婦の問題、嫁姑の問題、子育ての問題などたくさんの課題がありますが、これらすべてを解決することが困難な場合には、問題を抱えながらもすこしでも安定した生活ができる解決法を考えていきます。
うつ病を症状だけでなく生活全体から改善していく
このようなことが、「生活からうつを改善する」ということの意味です。薬を飲むことによって、幾分気分が軽くなるということはあります。しかし、これだけで良い状態を維持しながら快適な生活をしていくことが困難なことも多くあります。上に上げたように生活全体を改善し、生きがいをもって毎日が送れることを目標として治療をしていくことが、ロバストな寛解につながると私は考えています。