依存症が作られる脳のメカニズム

(Last Updated On: 2019年1月28日)

依存症とは

依存というのは、体に害のあることについて、やめたほうが良いけれども、やめられずにそのことを強迫的に繰り返してしてしまうことで、脳の病気であると考えられています。

依存という言葉は、嗜癖という言葉とも関連しています。この2つの言葉は、混同して使われていることが多いと思いますが(例えば: アルコール嗜癖、アルコール依存など)、依存症の治療で有名な久里浜医療センターのホームページには、依存は、嗜癖という大きな枠組みの中で、対象がアルコールや覚醒剤などの体に取り込む物質の場合に用いられ、これを含んでギャンブルなどの行為を対象とした場合は、嗜癖という言葉を使うように説明されています。ただ、実際にはこの2つの言葉は、かなり混同されて使われていているように思われます。

依存のほうがより一般に使われている用語なので、ここでは読みやすいように「依存」という言葉だけを使うようにしますが、用語を厳密に考える方は、適宜読み替えて解釈してください。アルコール依存、覚醒是剤依存、ギャンブル依存、買い物依存、ネット依存など様々な種類の依存をつかっった言葉が巷にあふれているように思います。

ここでは、個別の依存症でなく、依存がどういう脳のメカニズムでできてくるのかについて説明します。

依存症が作られる、脳内のメカニズムは、どの依存症でも共通したものです。もう少し厳密に言うと、これらは「精神依存」と呼ばれているものです。これに対して、「身体依存」という言葉もありますが、これは物質を長く使っていると、その状態に体がなれて、いきなりやめるといろいろな主には自律神経系などの症状(下痢、発汗、震えなど)が出現してくるもので、メカニズムは物質によって異なっています。

しかし、精神依存が作られるメカニズムは、全て共通していて、脳にある「報酬系」と呼ばれる神経回路が強化される(強く働く)ことによって依存が形成されると考えられています。

報酬系の神経回路

この図に紫色で示されているのが、報酬系に関わる回路です。これは、アメリカ国立薬物乱用研究所のウェブサイトから引用したものですが、脳の腹側被蓋野(VTA)から扁桃核(nucleus accumbens)に伸びている神経系が報酬系と呼ばれているものです。この刺激は更に前頭前野に信号が投射されています。

報酬系を担っている神経伝達物質(脳内の神経伝達に関わる物質)は、ドパミンです。したがって、ドパミンを強める物質は、依存を形成しやすいわけです。

報酬系は、とても大切な脳のメカニズム

報酬系は、大切な脳のメカニズムです。この部分が刺激をうけると、人は強い満足感、気持ちの良さを感じます。例えば、おいしい食事を食べたときにも報酬系は刺激され、満足感を得ます。更には、良いことをして感謝されるということがあっても、人は満足感を得て、そのときに報酬系は刺激を受けます。

このように報酬系が刺激されると、人は同じような満足感を得たいと思い、そのことをやろうという意欲が出ます。このような、正常の働きの中では、報酬系により人はより生産的で、良いことを繰り返し、更には工夫を重ねてより良い形で行おうとします。

依存ではこの報酬系が乗っ取られてしまう

しかし、この報酬系を努力や工夫によって刺激するのではなく、もっと簡単に刺激する方法があったらどうでしょうか。人は、努力をあきらめて、そちらを求めるようになるでしょう。これが依存の形成です。

努力をせずに、嫌なことを忘れるためにアルコールを飲んだり、覚醒剤などの違法薬物に手を出したりします。また、物質だけでなく、買い物をしてその場の爽快感を得たり、インターネットゲームによって得られる快感を追い求めたりするようになります。そうすると、容易に求められる報酬系の刺激をもっと強くしようということになり、次第に正常な努力や、それだけでなく生活そのものが障害されてしまうのです。

依存が形成されると探索行動もおきる

一旦依存が形成されると、探索行動もおこります。探索行動というのは、依存に関わる物質を探し回るというようなことでで、こう考えるとかなり異常なことのように思いますが、実は、依存は簡単に形成され、探索行動もよく観察されます。

例えば、アルコール依存は容易に形成されてしまいます。毎日、食事のときにアルコールがないと寂しい人は多くいると思います。実生活を阻害するほど有害な依存でなければ、臨床的には問題になりませんし、治療に結びつける必要のないレベルかもしれません。しかし、そういった人でも、家に帰って冷蔵庫にビールがなければ、食事前にわざわざコンビニにビールを買いに行くということもあると思われます。これは、まさしく探索行動です。

インターネット依存なども

インターネット依存症は、最近非常に話題になっており、これによって生活が大きく阻害している人も、特に若年層に多く居ます。インターネットやオンライゲームをやっている時間が長くて、他のことができないだけでなく、睡眠覚醒リズムが乱れ、ずっと座っているために筋力が低下し、更に肺機能、視力など様々な身体機能も障害されてきます。

これも、正常な報酬系の機能が、インターネットやゲームをやることによる刺激に乗っ取られてしまい、本来の生産的な生活ができなくなってしまっているわけです。

病院で処方される薬でも依存は形成される

更に注意すべきことは、病院で処方される薬でも依存は形成されるということです。そのような薬には様々なものがありますが、すなおクリニックから処方される可能性のある薬を例としては、睡眠薬や、日中の眠気の治療や、ADHD治療に用いる精神刺激薬がそれにあたります。

処方薬の依存も

睡眠薬では、常用量依存というものがあります。多く使われているベンゾジアゼピン系睡眠薬は、脳の報酬系を刺激します。ベンゾジアゼピン系睡眠薬は、直接にドパミン神経には働きませんが、ドパミン神経の活動を抑制している神経の働きを抑えます。そうすると、ドパミン神経が抑制されず、ドパミン神経は活動し放題になり、報酬系が刺激されます。自覚的には気持ちよく眠れます。そうなると、気持ち良い睡眠を手放したくないため、薬が無くなる前に医者に通うようになります。こういった人の多くが常用量依存に陥っていると思われます。

リタリン、コンサータ、モディオダールなどの薬などは、ドパミン系を刺激して依存を形成される可能性があることが指摘されています。したがって、このような薬も使用上は注意が必要です。

このような薬は、30日以上は処方してはいけないという決まりがあります。これは、依存が形成されないために必要と国が考えた決まりです。すなおクリニックは、これを守るようにしています。担当医は薬物の作用や、危険性の両方を考えて、投与量を決めていっていますので、患者さんの側でもぜひこれを守り、やたらに増量しないように気をつけてください。

参考

厚生労働省:依存症についてもっと知りたい方へ