ベンゾジアゼピン系薬物と眼の関係
ベンゾジアゼピンは、こちらのQ&Aでも取り上げている、代表的な抗不安薬、睡眠薬の属する、薬物のカテゴリーです。ベンゾジアゼピンは、依存を形成しやすく、短期間に限定して用いる、あるいはなるべく用いないのが基本です。
一方で、この薬物は他の診療科においても問題となっているようです。ベンゾジアゼピン眼症は、日本の井上眼科名誉院長若倉雅登先生が、最初に報告されたものです。私は、この症状については、大宮駅西口の大宮・井上眼科クリニックの先生から学びました。眼瞼痙攣(blepharospasm=下記YouTubeも御覧ください)や、羞明(まぶしさ)などの症状が、長期にベンゾジアゼピンを服用している人に出現するということです。
症状は、眼瞼痙攣や羞明(まぶしさ)のほか「まぶたがうまく働かない」「まばたきが多過ぎる」「目を開けようとしても、うまくいかない」などがあるということです(第11回 読売医療サロン「眼科医が見逃しやすい目の異常」)。
私の患者さんで、眼瞼痙攣の症状で大宮・井上眼科クリニックを受診したところ、このベンゾジアゼピン眼症を指摘されたそうです。診療情報提供書も頂いて、これに対応したところ、「ベンゾジアゼピン眼症に理解がもらえないことが多い中で、丁寧に対応してもらった」とのお返事もいただきました。また、最近は同じ大宮のはんがい眼科の板谷正紀先生とも交流をもち、ベンゾジアゼピン眼症について、教えていただきました。
蛇足ですが、積極的に他科の医師との交流を持つことは、臨床活動に非常に大切だと改めて感じています。
薬物による視覚の高次脳機能障害
前述の岩倉先生の論文を読むと、視覚を眼球だけで捉える、視るということに関わる脳神経系全体の問題として捉えておられることがわかります。たしかにそのとおりで、一見関係がないような、精神科 と 眼科 のつながりも、こう考えればつながりがあるように思えました。
ベンゾジアゼピン眼症については、岩倉先生の論文を引用しますので、参考としてください。
ベンゾジアゼピン系薬物や,類似薬の連用で,どのくらいの人が快適な視覚を妨げることになるのかはよくわかっていない。しかし,当院では,先に挙げた「眼瞼けいれん」が,過去17 年間にのべ1 万例蓄積された。このうち2012 年の1 年分を解析すると,その約32% はベンゾジアゼピン系など薬物性であることがわかった。目が開けられないほどではなくても,これらの薬物服用中に,眩しさ,痛み,霧視感を自覚する症例は少なくない。一般眼科では,ドライアイ,眼精疲労などとして片づけられたり,眼は健常なのに理に合わない訴えをする,神経質な患者として遠ざけられたりすることもある。(文献2)
最後に書かれている「眼は健常なのに理に合わない訴えをする,神経質な患者として遠ざけられたりすることもある」という記載は非常に示唆に富んでいます。我々も、専門家であるからこそ、なにもかにもが「精神症状」と考えないということを、肝に銘ずる必要があると考えました。
YouTubeによる、眼瞼痙攣についてのビデオです。
文献
- M Wakakura, et al, J Neurol Neurosurg Psychiatry 2004, 75, 506.
- 若倉雅登 快適な視覚とそれを乱すもの 化学と教育 65 巻3 号(2017 年)