アルコールと睡眠

(Last Updated On: 2018年11月6日)

アルコール健康医学協会『NEWS & REPORTS』の記事

これまでに、アルコールと睡眠についてはいくつかの記事を書いていますが、昨年アルコール健康医学協会の『NEWS & REPORTS』に掲載された私の記事を転載します。下記をクリックしていただくとダンロードできます。

NEWS & REPORTS

アルコールと睡眠(好きになる睡眠医学第1版より)

ナイトキャップの習慣は、良い眠りを得る目的で古くより愛されてきました。しかしながら、アルコールと睡眠との関係について調べた研究を見渡すと、アルコールと睡眠との関係は必ずしも好ましいものばかりではありません。ごく少量のアルコールは、気持ちをリラックスさせ、血管を拡張し皮膚温を上昇させ、入眠を促進します。しかしながら、この効果は毎日続けていると次第に慣れを生じてきます。つまり、同じ量のアルコールでは十分に眠れなくなってくるのです。そのため、次第に量が増えてくるというのは良くみられることです。また、入眠促進効果はあるものの、アルコールは睡眠の後半の眠りを浅いものにしてしまいます。深酒をしたあとに、以外に朝早く起きてしまった経験をされた方は少なからず居るのではないでしょうか。また、高齢者ではアルコールを同じ量飲んでも、血中や脳内のアルコール濃度が若年者よりも高くなり、夜間トイレに起きたときのフラツキや転倒の原因となったりもするので注意が必要です。

夕食時のアルコールも睡眠に影響があるかもしれない

では、就寝前でなく夕方食事時のアルコールはどうでしょうか。ある研究によれば、入眠6時間前に飲んだ普通の量(例えば缶ビール一本)のアルコールも、睡眠後半に覚醒を増加させることが示されています。夕食時に飲んだアルコールは、明け方の睡眠時にはすでに代謝され血液中にはほとんど存在していないと考えられますので、このようなアルコールの睡眠への影響は直接的なものだけでなく、比較的長期に睡眠調節への影響が残るものであるとも考えられます。

アルコールは無呼吸を悪化させる

また、アルコールは別項で述べた睡眠時無呼吸への悪い影響もあります。アルコールには筋弛緩作用があるので、睡眠中に咽頭の筋肉が緩み呼吸のための空気の流れを閉じてしまいます。そのため、無呼吸が悪化しそのために睡眠の質が悪くなるということもあります。

健康全般から考えると、必ずしも全て悪いというわけではない

このようにアルコールの睡眠に対する影響は、何一つとして良いものが無いようにも思われますが、健康医学的な側面から考えるとアルコールの効用もあります。アルコールは、ストレスを軽減させます。また、動脈硬化を防ぐ効果もあるとされています。英国の研究では、適量のアルコールを飲んでいる人のほうが、心臓病による死亡率が低いという報告があります。一般には、アルコールは少量であれば死亡率が低下し、更に摂取量を多くすると死亡率が上昇するという傾向があります。睡眠との関連を考えると、適量でも睡眠に対して必ずしも良い影響は無いという結果ですが、しかし、健康全般から考えれば、良い面もあり、正確な知識をもって、適量の飲酒に心がけると良いと思います。

 

アメリカの睡眠財団の記事から

アメリカの睡眠医学の振興を行っている、National Sleep Foundationに、表題の記事が出ていました。この記事に書かれている内容は、簡潔にうまくまとめられているので、紹介します。

副題は「ナイトキャップは、睡眠に対してあまり良い選択肢ではないかも…。」というようなものです。このぼかした表現が、まあ、あながち全部悪いとも言えませんが…という雰囲気にも感じられます。内容は至ってノーマルなもので、以下のとおりです。

Fact 1: Alcohol May Help You Fall Asleep Faster.

アルコールは、寝付きを良くするかもしれません。

これは、多くの人が経験していることですが、次のFact 2を御覧ください。

Fact 2: But That Sleep May Not Be Restful.

しかし、その睡眠は必ずしも疲れの取れる良いものではないかも…。

アルコールは睡眠の前半では、徐波睡眠(深いノンレム睡眠)を増やします。しかし、睡眠の後半では、目が冷めやすくなります。更に、レム睡眠は抑制されることになります。レム睡眠が抑制される、目覚めやすくなるような状態によって、お酒を飲まない睡眠に比べて、トータルでは質が落ちるということです。

Fact 3: Women Are More Likely to Be Affected.

女性のほうが、より影響を受けやすい。

同様にお酒を飲んだ場合は、女性のほうがその影響を受けやすいということが知られているようです。これは女性のほうが代謝が早いので、上記の睡眠が障害される2番めの状態に早く移行するからと説明されています。これは、私は知りませんでした。

Fact 4: Moderation Is Key.

中庸が鍵です。

大体、これがいつも落ちになりますね。お酒については、これに尽きると思います。好きな人が全くやめる必要はないと思いますが、飲み過ぎには注意ということですね。