睡眠時無呼吸症候群とは?

(Last Updated On: 2019年8月14日)

眠っている間に、呼吸が止まる疾患です

睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中に呼吸が止まる疾患です。正確に言えば、低呼吸と呼ばれている、「完全には止まっていないが、酸素の供給度が下がってしまう状態」も含めています。

eos sleepというサイトの睡眠時無呼吸症候群の歴史によれば、こういった症状自体は2000年も前から知られていたということです。その後、今世紀に入ってからはピックウィック症候群という名前で知られるようになりました。これについては、私の「好きになる睡眠医学第1版」に、エピソードが書かれています。第2版になって、この部分は削除してしまいましたので、下記に転載します。

ピックウィッククラブ倶楽部遺文録に描かれているJoeという太った少年。www.charlesdickensinfo.com/より転載

拙書 好きになす睡眠医学第1版より転載:
ピックウィック症候群は、
睡眠時無呼吸症候群の別名として、バーウェルという医者が1956年に用いたのが最初のようです。チャールズ・ディケンズのピックウィッククラブ倶楽部遺文録という物語に出てくるジョーという登場人物が、赤ら顔で太っていて、いつも眠そうにしており、仕事中でさえいびきをかいて寝込むことから、このような名前をつけたということですが、こういった病名についての考察をしているコムローの論文では、第1にジョーはピックウィッククラブ員ではないのにピックウィッククラブ員を示すPickwickianと言う言葉を使ったのが間違っていると言っています。また、彼はディケンズの小説のどこを読んでも、このJoeという少年に無呼吸があったらしき記述は無いとしています。まあしかし、私が考えるにピックウィック症候群でなく、ジョー症候群ではあまりに一般的名称過ぎて覚えが悪いですし、ピックウィックというような変わった名称をつけたことで注目を集めると言う意味では、バーウェルのアイディア勝ちという気もします。

最近では、ピックウィック症候群という名称はほぼ使われず、睡眠時無呼吸症候群と呼ばれています。ピックウィック症候群に出てくるジョーは、肥満が特徴ですが、睡眠時無呼吸症候群は、太っている人だけの疾患ではないということが最近はよく認識されてきたということも、一つの要因だと思います。

太っていない場合は、どのような人が無呼吸になりますか

太っていない場合も顎の大きさの小さい人に多く見られます。明らかに顎が小さいだけでなく、上下の歯を閉じて、イーッと口を開けたときに、上の歯が下の歯をほぼ隠してしまうような場合は、過蓋咬合(かがいこうごう)と言って睡眠時無呼吸症候群が存在する可能性がより考えられます。

つまり全体として顎が小さい、あるいは後ろに引けている場合でこういう場合には特に仰向け寝をしたときに気道が閉塞しやすくなります。このようなケースでは、横向き寝をしているときには全く問題がないという場合もあります。

放置しておかず、しっかりと治療する必要のある疾患です

睡眠時無呼吸症候群は、診断を受けたら必ず医師の指示に従って治療を開始すべきです。特に中等症以上の診断を受けたなら、たとえ日中の眠気がさほどひどくなかったとしても必ず治療することをおすすめします。その理由は、毎日とる睡眠の中で、常に呼吸が止まり、体に負担をかけるということが起き、心血管障害のリスクを高めているからです。

重症であれば、必ずCPAP(下記で説明)治療を行なうことが必要です。また、軽症であったとしてもいびきを軽減させるマウスピース治療(OA: 口内装具)を用いる治療や、横向き寝などを励行することによって、睡眠の質が向上し、日中の集中力が上がることも期待できます。

軽症だからと放置せず、可能な対応によって睡眠を改善して、日中の覚醒の質を向上させることは、より快適な生活につながります。

重症度はどのように判定しますか

睡眠時無呼吸症候群の重症度は、AHIという値を使って評価します。AHIは、Apnea Hypopnea Index(無呼吸低呼吸指数)の頭文字をとったもので、簡単に言えば、ねている1時間あたり何回無呼吸があったかを示す回数です。単位は回/時間です。この値は、重症度と治療導入の基準になっています。下記のまとめはやや複雑ですが、日本の医療保険制度上の基準もあって複雑になっているということで、5未満が正常 5から15が軽症 15から30が中等症 30以上が重症とおぼえておけば良いと思います。

『無呼吸低呼吸指数による重症度の分類』
(拙書 好きになる睡眠医学第2版より改変転載)

5未満正常
5以上-15未満軽症
15以上-30未満中等症

15以上—ICSD-2の睡眠時無呼吸症候群診断基準
20以上日本の医療保険制度上、
施設でのフルPSGにてCPAPが適応となる値
30以上重症
40以上日本の医療保険制度上、自宅での簡易型PSGの結果にてCPAPが適応となる値

上記にもありますが、PSGというのは脳波や呼吸記録などの様々な生理指標を記録しながら睡眠をとる検査法です。これによって、何回無呼吸があったのかがわかります。

PSGには、医療施設に宿泊して行なうフルPSGと、自宅に持って帰って記録する簡易型PSGがあります。簡易型PSGでは、脳波を記録しないことから値がやや不正確だということで、20でなく40というより厳しい値になっています。したがって、簡易型PSGで、25くらいの値だと、もう一度フルPSGをしましょうということになります。

すなおクリニックで行っている、簡易型PSG(ウォッチパット)については、こちらを御覧ください。

放置しておくとどうなりますか【少々専門的】

この部分を読み飛ばす人のために: 
放置しておかず、CPAP治療を行なうほうが良いということは申し上げておきます。また、十分な睡眠時間をとり、生活を改善することを同時にすることは、同じくらい大切だということも認識すする必要があります。

He-J 1988のオリジナルの図

睡眠時無呼吸症候群の重症度による生存率の推移については、様々なホームページで紹介されていますが、殆どは[1]の文献によるものです。これは1988年にRoth教授の研究室で行われた統計で、AHI(正確には低呼吸が入っていないAI)が20以上の人たちは、8年経つと63%の人しか生きていない。逆に言えば、37%の人たちが亡くなるということを示しています。したがって、ぜひCPAP治療は大事だと言うことの根拠に、現在も多く使われています。

CPAP治療が大切であることには代わりはないのですが、私はこの図を見たときに、自分の患者さんを診察している印象として、臨床的には、ここまで危険度が高いのかどうかについの疑問は持っていました。AIは20以下の人の平均は8.7、20以上の人たちの平均は46.1です。このくらいのAHIの人は、外来には多く居ます。

しかし、この疑問に答えてくれる論文が最近出ました。Kendzerskaらの論文[2]によれば、AHIだけに注目すると、上記のような結果になるのですが(Kendzerskaの図1)、心血管障害のリスクファクター(脳卒中、心筋梗塞、うっ血性心不全、高血圧、慢性閉塞性肺疾患、うつ病、糖尿病など)の影響を取り除くと、AHIだけによる評価ではあまり差がなくなる(Kendzerskaの図2)という結果を提出しています。これは、AHIが様々な心血管障害のリスクファクターと関連があると解釈することも大切ですが、同時にその他のパラメーターを丁寧に検討してリスクを考えるという点でも大切です。

(Kendzerskaの図1)
(Kendzerskaの図2)

彼らはその中で、最も睡眠評価で関連があり重要であるものとして、酸素飽和度が90%以下に低下する時間を上げています。特に酸素飽和度が90%以下に低下する時間が9分以上ある群では有意に心血管障害のリスクが上昇するとしています。

こう考えると、AHIを評価することは引き続き重要でありますが、睡眠中の酸素飽和度(SaO2)の変化に注目することは、更に重要であると思われます。今後、内科の分野でもこのような視点で、睡眠時無呼吸症候群の評価が見直されるかもしれません。

どのような治療をしますか

治療については、別項目で詳しく説明しますが、大まかには以下のとおりです。

全ての重症度で ⇒ 必要あれば、運動療法、食事療法など。また呼吸筋を鍛えるための有酸素運動も行なう。
軽症 ⇒ 横向き寝、マウスピース(OA: 口内装具)
中等症以上 ⇒ CPAP(シーパップ:持続陽圧呼吸)治療

丁寧で正確な診断と生活指導が重要

これらを考えると、睡眠時無呼吸症候群に関しては、AHIの値だけでなく、睡眠中の酸素飽和度についても注目し、また肥満度などにも応じて生活療法を含めた治療法を丁寧に考えていくことも大切です。睡眠時無呼吸症候群を治療することによって、うつ状態が改善することもあります。治療により、健康な生活を手に入れていきましょう。

 参考文献

  1. He J, Kryger MH, Zorick FJ, Conway W, Roth T. Mortality and apnea index in obstructive sleep apnea. Experience in 385 male patients.  Chest. 1988 Jul;94(1):9-14.
  2. Kendzerska T, Gershon AS, Hawker G, Leung RS, Tomlinson G.  Obstructive sleep apnea and risk of cardiovascular events and all-cause mortality: a decade-long historical cohort study.  PLoS Med. 2014 Feb 4;11(2):e1001599. doi: 10.1371/journal.pmed.1001599. eCollection 2014 Feb.