すなおクリニック院長は、2017年3月まで早稲田大学で教鞭をとっていました。早稲田大学に勤務していた14年間の大学での主な仕事は、学部学生講義、ゼミ担当、大学院修士課程、大学院博士課程の担当をしての、教育研究です。この他に、学生担当教務主任などの経歴もあります。この経験は、現在のクリニックでの治療でとても役に立っていると思います。以下に具体的に述べますが、これらの経験をもとに、学生メンタルヘルスのサポートをすなおクリニックでは行っています。
学生メンタルヘルスの特徴
同じうつ状態の問題でも、その背景にあるものは様々です。新入社員にはその特徴が、また主婦にはまた別の特徴がありますが、学生メンタルヘルスには様々な学生ならではの特徴があります。
学生は簡単に休職できない
仕事をしている人よりも、学生の方が時間があると思っている人は多いと思いますし、実際に多くの学生は自由を謳歌しています。しかし、メンタルヘルスの問題を抱えた場合に、仕事をしている人よりも難しい面もあります。サラリーマンは、メンタル不調を抱えれば、診断書を提出して3ヶ月の休職(有給休暇、あるいは傷病手当金支給)ができます。その間の収入もある程度保証されます。しかし、学生はメンタル不調となると、留年、更には、余分の学費納入と言うようなことにもなります。これは、卒業が伸びるということにも繋がり、他の学生と同じに卒業できないということにもなる更なるストレスを伴うこともおきてきます。
単位を集めなければいけない
当たり前のことですが、学生は単位を卒業までに単位を習得しなければなりません。このことがうまく行かなければ、これが学生のストレスになります。卒業への単位は、通常は4年間で130単位程度ですが、1年生でどのくらいの単位を取るのが良いのか、どのくらいの単位を3年生の前期で取ってあれば、卒業が可能になるのかなどは、医学部でない一般大学で大学教授を経験していなければ、なかなかわからないと思います。こういったことにも注目しながら、生活の指導ができるということも、大学生のメンタル不調を治療する上では重要な事です。
ゼミ内・研究室内の人間関係や、卒論、修論、博論の提出
研究室は、通常ゼミ生を主体とする学部生、修士課程の学生、博士課程の学生、助手や助教、などの上に教授がいて研究活動をチームで行っています。楽しくやっている研究室もありますが、楽しいながらも厳しい研究室もあると思います。そのような中で、「社交不安障害」「発達障害」などの特徴があると、このような人間関係の中で適応するのが難しいことが有ります。また、指導する教員も、間に立つ助手や助教も、メンタル不調に対して、非常に理解があるとも限りません。その場合は、頑張らないのでは周りに迷惑がかかるなど、メンタル不調を抱えた本人には、強いプレッシャとなる対応をしてしまうこともあります。
どのような働きかけがあるか
担当教員への働きかけ
メンタル不調があったら、テストを受けなくても単位がもらえるということは無いと思います。しかし、こういったときに、不調をもった学生は、どちらにしてもダメだと、担当教員にアプローチしておけば可能性のあったことを最初から諦めてしまいがちです。しかし、主治医が診断書を書いて提出すれば、教員によっては課題を出してくれたりして、なんとか単位取得の応援をしてくれる場合もあります。診断書を書いても受け付けないということも勿論ありますが、多くの場合は担当教員や、教務が一緒に考えてくれると思います。このようなことを一緒に考えて、できることをやるようにすることも、回復を早める一助になります。あくまで患者さん本人の意向を尊重しながら、こういったアプローチをするのも有効です。
相談室との連携
学生には産業医は居ませんが、大学には健康管理センターや学生相談室があります。このようなところと連携を取るのも一つの方法です。健康管理センターには精神科医がいる場合もありますし、常勤の保健師さんや心理士が居ることもあります。こういった組織に関わることをあまり好まない患者さんもいますので、あくまで患者さん本人の意向を尊重しながらですが、相談室と連携する方法もあります。
大学のシステムをよく知ること
大学には、休学という制度もあります。休学中は多くは学費がかかりません。もし、しっかりと休みたい場合は、休学という選択肢もあります。何年休学ができるのか、その上でどのような見通しで治療を行っていくのか。このようなことを相談しながら治療することもとても大事なことです。
就活との関連
大学4年生になって、就職活動をするようになって、メンタル不調に陥る学生も居ます。様々な要因がありますが、多くは一生懸命書いたエントリーシートが評価されないということが、続いたりすることで、就活を続ける気力を失ってしまう場合です。しかし、就活は一つ内定を貰えば良いわけで、いくつも貰う必要はありません。また、大学には自分の知らない情報も隠されていることもあります。キャリアセンターなどの窓口に出向く前に、気力を失ってしまう学生が居ますが、脚をむければ、キャリアセンターでは親身になって相談に乗ってくれる相談員が居て、良い就職先が見つかる場合もあります。そのような窓口を具体的に探すことも可能だと思います。
大学のことをよく知った上で、状況に合わせて治療をすすめることの大切さ
大学生は、これからの輝かしい未来への無限の可能性を持った人です。一方で、アルバイトはしていても、社会の中でしっかりと仕事をした経験は殆どありません。いざ就活のなった場合にも、自分が一体どんな職業に向いているのか。その職業についても、続けていけるのかなど様々な不安も抱えています。そういった中で、メンタル不調に陥ったときには、具体的に抱えている問題点を、精神医学的視点と、大学教育の視点の両方の視点からアプローチしていくことは有効な治療に繋がると考えています。