服薬で睡眠時無呼吸症候群が治療できる可能性が発表されました

(Last Updated On: 2018年9月24日)

有名な科学雑誌Scienceに、表題の内容の論文が掲載されました。日本で実際に臨床応用されるのはまだ先だと思いますが、非常に興味深い内容なので解説してみました。

2018年9月に学術雑誌Scienceに発表された論文は下記のものです

Drug pair shows promise for treating sleep apnea
(ペアの薬物が睡眠時無呼吸の治療を約束できることを示した)
Meredith Wadman

Science  21 Sep 2018: Vol. 361, Issue 6408, pp. 1174-1175
DOI: 10.1126/science.361.6408.1174

Scienceホームページの解説

(拙訳)何十年もの間、研究者は閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)を治療する薬物を探すため、多くの時間を費やしてきた。OSASは、危険な増加傾向にある、ヒトの上気道が睡眠中に何度も閉塞し一晩に何十回何百回と息が止まってしまう疾患である。今、新しい薬の組み合わせによって、マスクとヘッドギヤを夜間装着しなければならない厄介な呼吸マシーン(訳注:CPAPのこと)の替わりに服薬によってOSASを治療するという希望が、再び得られた。アトモキセチン(訳注:商品名ストラテラ)とオキシブチニン(訳注:商品名ポラキス)はこれまで長くFDAで承認された他の疾患を治療する薬物である。しかし、Brigham and Women’s病院のチームが、就床前に20人の患者にこの薬の組み合わせを投与したところ、1時間あたりの平均無呼吸数は、28.5から7.5に劇的に変化した。この研究に参加していないペンシルバニア大学の医師研究者、Sigrid Veaseyは、「信じられないほど興奮する」と述べている。

原文

For decades, scientists have searched in vain for drugs to defeat obstructive sleep apnea, the risky and increasingly prevalent condition in which a person’s upper airway repeatedly collapses during sleep, causing them to briefly stop breathing dozens or hundreds of times each night. Now, a new drug combination has reawakened hopes of treating sleep apnea with medication instead of the cumbersome breathing machines that saddle sufferers with a mask and headgear at night. The pills, atomoxetine and oxybutynin, have long been approved by the Food and Drug Administration for treating unrelated conditions. But when a team led by researchers at Brigham and Women’s Hospital in Boston gave them before bedtime to 20 patients, their number of hourly airway obstructions fell dramatically, from a median of 28.5 to a median of 7.5. “That’s actually unbelievably exciting,” says Sigrid Veasey, a physician-researcher who studies sleep at the University of Pennsylvania who was not involved with the study.

これらの薬物はどのようなもの?

日本で承認されている薬物の使用法は以下のとおりです。

物質名      商品名        適応疾患

アトモキセチン  ストラテラ      注意欠如多動性障害
オキシブチニン  ポラキス       神経因性膀胱

こうみると、全く関係のない薬の組み合わせのようですが、アトモキセチンは、ノルアドレナリンの働きをつよめ、オキシブチニンはアセチルコリンの働きを弱めます。これらはともに神経伝達物質で、ノルアドレナリンとアセチルコリンの両方の働きをコントロールすると睡眠時無呼吸症候群が軽快するということです。

薬物による効果の仕組み

ここに示したのが、Scienceの論文からの図です。原文はすべて英語ですが、要点だけを解説すると、オキシブチニンはアセチルコリンの働きを弱めて、レム睡眠中に筋肉の弛緩が起こることを防ぎます。また、アトモキセチンはノルアドレナリンの働きを強めて、オキシブチニンとともにノンレム睡眠中のオトガイ筋の反応性を向上させます。これらによって、レム睡眠、ノンレム睡眠を通して筋肉の反応性が向上し、起動が閉塞しないため、無呼吸が起こりにくくなるということです。

これから、かなりの勢いで、これと類似した薬物の効果が試され、どのような割合の配合が良いのかなどが研究されることになるでしょう。実際の臨床では、毎日のCPAPで苦労している人たちが、これから開放されるということは素晴らしいことだと思います。

すぐに治療に使われますか?

このような治療法が発表されても、すぐに治療に応用するのは慎重にすべきだと思います。このような組み合わせについても、日本人でどのくらいの量を投与するのが良いのか、それぞれの薬物は副作用もあるので、それらについての注意など、多くのことを確認して実際に効果が安定したものかを調べた上で、臨床的には使われるべきのだと思います。